終わらない家事と色褪せて見えた日常
朝、スマホのアラームより先に目が覚める生活。
洗濯物を干して朝食と夫のお弁当を用意し、小学生の子どもを急かして学校へ送り出す。週3日のパートへ向かう電車の中では今日の特売品と夕飯の献立をパズルのように組み合わせる。
帰宅すれば、息つく間もなく宿題のチェックと夕飯の準備をする。
夜、ようやく訪れる静寂の中で、私はいつも何か物足りなさを感じていた。
SNSを覗けば友人たちの楽しそうな投稿が流れてくる。
「みんなキラキラしているのに、私は…?」
パート代は家計の足しにはなっても、大きなゆとりを生んではくれなかった。
かといって、これ以上働く時間を増やす気力も体力も正直なところ残っていなかった。
毎日は同じことの繰り返しのように思えて日常が少しずつ色褪せて見えた。
スーパーのレジでふと感じた社会との距離
子どもの寝顔はいつ見ても私の心を癒してくれる。
でも、その小さな手を握りしめながら、この子の将来、そして自分たちの老後を考えると漠然とした不安が胸をよぎった。
夫は真面目に働いてくれているけれど、お金の話になるとどこか他人任せで具体的な将来設計は私一人が抱え込んでいるような気がした。
パート先の人間関係も、時には気疲れすることがあった。
スーパーのレジで対応をしていると、日々たくさんの商品とお金が目の前を通り過ぎていく。
でも、それはどこか自分とは切り離された世界の出来事のようにも感じられた。
「私、社会とちゃんと繋がっているのかな…」
そんな疑問がふと頭をよぎることが増えた。
カフェでの雑談と「個別株って面白そう」からの探求
きっかけはパート仲間との休憩中の何気ない雑談だった。
「最近、好きな食品メーカーの株を少し買ってみたのよ」
そんな一言が私の心に小さな波紋を広げた。
「株って難しくない?」「何だか怖いイメージがあるけど…」
口々にそんな言葉が飛び交うなかで私は妙にその話に惹きつけられた。
帰宅後、すぐにスマホで「個別株」「主婦 投資」といったキーワードで検索してみた。
最初は専門用語の多さに戸惑ったけれど、読み進めるうちに自分が普段使っている商品やサービスを提供している会社の株を買うことがその会社を「応援する」ことにも繋がるという考え方に興味を持った。
それはただお金を増やすためだけでなく、社会との新しい関わり方ができるかもしれないという期待感を与えてくれた。
夫に相談すると最初は「大丈夫なのか?」と心配そうな顔をされた。
でも「お小遣いの範囲でまずは自分がよく知っている会社の株を少しだけ買ってみたい」と熱意を伝えると、最後は「無理のない範囲でなら」と背中を押してくれた。
後日、証券会社の口座を開設した。口座の開設は思ったよりも簡単でスマホで全ての手続きは完了した。
そして、応援したいと思っていた食品メーカーの株を初めて購入した。
今でも、数株だけ初めての株を買った時のあの高揚感は忘れられない。それは新しい世界への扉を自分の手で開いたようなそんな感覚だった。
株価チェックのドキドキと届いた「株主優待」
それからはパートへ向かう電車の中や家事の合間に、スマホで株価をチェックするのが新しい日課になった。
株価が上がった日は心が弾み、下がった日は少しだけ肩を落としたけれど、それはまるで贔屓のスポーツチームの試合結果を気にするようなハラハラドキドキする楽しさがあった。
数ヶ月後、初めて「配当金」が振り込まれた。
金額はお気に入りのコーヒー豆が買える程度のごくわずかなもの。でもそれは、私がパートで稼いだお金とは違う、応援している会社からの「ありがとう」のメッセージのように感じられた。
「私のお金が社会のどこかで役に立っているのかもしれない」
そんな実感がじんわりと胸に広がった。
そしてもっと嬉しかったのは、その数週間後に届いた「株主優待」だった。
応援していた食品メーカーから送られてきたのは自社製品の詰め合わせ。
子どもと一緒に箱を開けた時のあのワクワクした気持ち。配当金とはまた違う、企業からの心のこもったプレゼントのような温かさがそこにはあった。
「節約だけ」から「育てる、応援する」へ
個別株を持つようになってからお金に対する考え方が大きく変わった。
「ただ節約するだけ」だった毎日から「応援する会社を育て、自分もその恩恵を受ける」というより積極的で楽しい関わり方ができるようになった。
ニュースで経済の話題が流れると、以前は他人事だったのに、今は自分が株主になっている会社がどんな影響を受けるのか自然と考えるようになった。
もちろん、個別株投資にはリスクがつきものだ。
だから生活費とは完全に切り離した余裕資金で、一つの銘柄に資金を集中させすぎないように気をつけている。
短期的な株価の変動に一喜一憂することもあるけれど、基本的には「長く応援する」というスタンスでじっくりと付き合っていこうと思っている。
それはまるで自分の手で小さな苗木を育て、その成長を見守るような感覚に近かった。
主婦だって社会と繋がる「推し活」ができる
「主婦には縁遠い世界」
「私なんかにできるはずがない」
かつての私がそうだったように、自分に制限をかけてしまっている人は少なくないかもしれない。
社会との繋がりが希薄に感じられたり、日々のルーティンワークに心が摩耗してしまったり。
でも、個別株投資は私にとって新しい「推し活」のようなものになった。
応援したい企業を見つけてその成長を願い、時には株主として意見を届けることもできる(まだやったことはないけれど)
それは、家にいながらにして社会と繋がり、経済のダイナミズムを肌で感じられる刺激的で知的な趣味とも言えた。
そしてその活動が、ささやかながらも家計の足しになり、将来への布石にもなるのだからこんなに面白いことはないとさえ思うようになった。
おわりに。 一杯のコーヒーと未来を描くワクワク感
あの日、初めての配当金で買ったお気に入りのコーヒー豆。
その香りを楽しみながら応援している会社のことを考えたり、次にどんな会社を応援しようか思い巡らせたりする時間は、今の私にとってかけがえのないものになった。
それは色褪せて見えた日常に新しい彩りとトキメキを与えてくれた。
個別株投資は単にお金を増やすための手段ではない。
それは、社会との繋がりを再発見し、自分の興味関心を広げ、日々の生活に小さな楽しみと未来への希望を与えてくれる私にとっての新しい冒険なのだ。
もし、かつての私のように何となく物足りなさを感じていたり、新しい一歩を踏み出すことを躊躇していたりする人がいたとしたら伝えたい。
世界はあなたが思っているよりもずっと面白くて、たくさんの可能性に満ちている、と。
そしてその扉は意外と身近なところにあるのかもしれない。