輝いて見えた友人たちと僕の焦燥感
大学時代の友人たちと久しぶりに集まった日、僕は胸の奥がざわついていた。
「最近さ、米国株の積立がいい感じでさ」「NFTちょっと始めてみたんだよ」「副業のライター、月5万くらいにはなったかな」
どの友人も、口々にそんな話をしている。
もちろん、彼らは自慢しているわけじゃない。ただ近況を話しているだけなのに、どこかキラキラと輝いて見えた。
一方で僕はといえば、毎日会社と家を往復するだけ。上司に叱られ、貯金もほとんどない。副業も投資も「いつか始めたい」と思いながら、結局何もできていない。
「置いていかれる」——そう感じたのは、この時が初めてじゃなかった。
帰りの電車で窓に映る自分の顔がやけに疲れて見えた。
「このままでいいのか?」
そんな問いが頭の中でリフレインしていた。
「焦り」と「情報の波」に溺れる日々
SNSを開けば、「投資で月利10%!」「ブログで副収入20万円!」「FIRE達成しました!」そんな情報が無数に流れてくる。
一方で怪しい情報も多い。
「99%が失敗する副業」「投資は危険」「詐欺に注意!」と警鐘を鳴らす投稿も目にする。何が正解かわからないまま、僕はただスクロールを繰り返す日々だった。
「やらなきゃ」「でも失敗したら怖い」
そんな気持ちが毎日交錯していた。
特にTikTokやInstagramでは「秒で稼げる!」といった派手な広告が氾濫している。僕も何度か「副業スクール無料説明会」「LINE登録で副業スタート」といった広告をクリックしかけたことがある。
けれど、調べるほど怪しく感じ、結局手を出せずにいた。
夜ベッドに横たわると、心の奥底から不安がじわじわと押し寄せる。周りがどんどん先に進んでいる気がして、取り残される自分に自己嫌悪すら覚えた。
焦りがピークに達すると思わず「何も考えず寝よう」とスマホを閉じる。そんな夜が何度も続いた。
なぜ僕は動き出せなかったのか?
自分なりに分析してみた。なぜ僕はあの一歩を踏み出せなかったのか?
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完璧主義
「ちゃんと知識をつけてから始めよう」と思っていた。 -
比較癖
友人たちの成果と自分を比べて、自己嫌悪に陥っていた。 -
失敗恐怖
「失敗してお金も時間も失ったらどうしよう」という漠然とした不安があった。 -
情報過多
調べれば調べるほど「これで本当に大丈夫なのか?」と疑心暗鬼になっていた。
特に「失敗した自分を周りに知られたくない」という見栄が僕を強く縛っていた。周囲に「副業始めようと思ってるんだ」と口にすることすら怖かった。「どうせ続かないだろう」と思われるのが嫌だったのだ。
でも実は、SNSで目立つ“成功者”は少数派だというデータもある。
日本証券業協会の調査(2024年)によれば、20代の投資経験者は約28%に過ぎない。また、厚生労働省の調査(2024年)では、20代の副業実施率は約18%となっている。
つまり、僕が目にしていたのは、ごく一部の成功者の声だったのだ。
転機——小さな一歩を踏み出した日
そんなある日、ふと読んだビジネス書にこんな言葉が刺さった。
「行動しながら学ぶ人は、学んでから行動する人よりも早く成長する」
この一文が僕の凝り固まった思考を打ち破ってくれた。「知識ゼロでもまずはやってみよう」——そう決意した。
最初に選んだのは「つみたてNISA」だった。少額から積み立てられ、リスクも抑えられているという点が決め手だった。
証券口座を開設する時も正直手が震えた。
本人確認書類のアップロード、マイナンバー登録、銀行口座との連携…すべてが初めてで「本当にこれで合ってるのか?」と不安でたまらなかった。
でも、ひとつひとつ調べながら、少しずつ前に進めた。
そして、月1万円の積立をスタート。
数日後、画面に「購入完了」と表示された時、不思議な達成感があった。たったそれだけのことなのに「自分にもできた」という小さな自信が生まれたのだ。
涙が出そうになるくらい久しぶりに前に進めた感覚だった。
小さな成功体験が次の行動を後押しする
「やってみたら意外と怖くないな」
この小さな成功体験が次の行動への大きな後押しとなった。
友人のすすめで、クラウドソーシングの副業案件に登録してみた。まずはブログ記事作成の単発案件を受注。テーマは「犬の健康管理に関する記事」だった。
納品後、3,000円の報酬が振り込まれた時、投資の時とはまた違うリアルなお金の重みを感じた。
自分の力で稼いだお金だという実感が僕に確かな喜びを与えてくれた。
さらに「副業初心者向けライティング講座(オンライン)」にも申し込んでみた。全5回の講座ではSEOの基礎や文章の構成方法、納品マナーなど、具体的なスキルが身についた。講師の言葉が印象的だった。
「完璧な記事なんて存在しません。納期を守って丁寧に対応すれば初心者でもリピートされます。」
実際、その後は2件、3件と依頼が続き、副収入も月に1万円程度になった。
何よりも嬉しかったのは、徐々に「自分にも価値がある」と思えるようになったことだ。以前は「自分は何もできない」と思い込んでいた。でも、小さな積み重ねが僕を少しずつ変えていったのだ。
この経験から、僕はいくつかの重要な気づきを得た。
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完璧でなくてもできることはある。
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小さな行動が自信を生む。
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誰かと比べるより、自分の昨日と比べること。
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学びは行動とセットで深まる。
友人に追いつく必要なんてなかった
数ヶ月後、再び友人たちと集まった時。以前のような焦燥感は不思議となくなっていた。
「お、NISA始めたんだ!」「副業もいい感じじゃん!」と友人たちが声をかけてくれた。
彼らは最初から特別だったわけじゃない。僕より少し早く動き始めただけだったのだ。
ある友人は「NFTでちょっと失敗したけど勉強にはなったよ」と笑っていた。
もう一人は「副業始めたけど続かなかったんだ」と正直に話してくれた。僕が勝手に「みんな成功してる」と思い込んでいただけだったのかもしれない。
むしろ大切なのは、「自分がどこまで行動できたか」だった。少しずつでも自分のペースで前に進めばいいのだと、ようやく心から思えるようになった。
これから始めるあなたへ
今も僕は投資や副業の勉強を続けている。
決して大成功しているわけではない。でもあの日、焦燥感に苛まれていた自分とは比べ物にならないほど視界がクリアだ。
もし、かつての僕のように焦りや不安を感じている人がいたら伝えたい。
「小さな一歩を今日踏み出してみてほしい」
それは、証券口座を開設することでも、クラウドソーシングに登録することでも、YouTubeで副業初心者向けの動画を一本見ることでもいい。完璧じゃなくていい。行動した瞬間、あなたはもう昨日の自分を超えている。
誰もがスタート地点はバラバラだ。でも、一歩踏み出せたその瞬間があなたの新しいスタートになるはずだ。
参考文献・統計データ
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日本証券業協会『証券投資に関する全国調査(2024年版)』
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厚生労働省『副業・兼業に関する実態調査(2024年版)』
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『行動経済学が教える最強の投資術』(ダン・アリエリー著)
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『副業1年目の教科書』(今井孝 著)
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『SNS時代の情報リテラシー』(田中秀幸 著)