財布の中に千円札が一枚。
給料日まであと4日。「あと1万円あればな……」とつぶやくのが癖になっていた頃、僕はふと気づいた。
お金が足りないのは確かにしんどい。でも、それ以上に「心の余裕」がなかった。
これは「あと1万円がない僕」が始めた“お金じゃない資産”を積み上げていく日々の記録だ。
資産運用とは何も株や投資信託だけじゃない。
心の中に築ける資産だってある。
金欠よりもしんどかった「心のすり減り」
20代後半、東京で一人暮らし。
家賃と食費、スマホ代とサブスクで給料日は毎月“ゼロリセット”。
たまに予想外の出費があると途端に生活は綱渡りになる。
その月も家賃の引き落としとクレカの請求で口座は空っぽになった。
コンビニのレジ前で「ポイントカードはお持ちですか?」と聞かれて、声がうまく出ない。
なんだか、その日は人と話すのも面倒で目も合わせられなかった。
帰り道、道端に落ちた10円玉を見つけてしばらくじっと見ていた。
「これを拾っても何かが変わるわけじゃない」そんな気持ちが全身を覆っていた。
そのとき僕が必要としていたのは1万円ではなく
“心の中に残高を増やすこと”だった。
心の資産とは何か?
心の資産とはたとえば「安心感」「自信」「つながり」「自己効力感」など、数値には表せないけれど確実に人生の“クッション”になるものだ。
それは人間関係だったり、誰かの言葉だったり、過去の経験だったりする。
お金のように目に見えないからこそ、気づかないうちに“残高ゼロ”になっていることもある。
お金がないとき人は孤独に陥りやすい。
余裕がないから人に頼ることが怖くなる。でも心の資産があればたとえ財布が空っぽでも「まだ大丈夫」と思える強さが生まれる。
僕が始めた5つの“心の積立”習慣
実際に僕が始めたのは以下の5つの“心の積立”習慣だった。
どれもお金はかからないが、確実に僕の毎日を救ってくれた。
1. 毎日感謝を3つ書き出す
「電車で座れた」「朝のコーヒーがうまかった」「同僚がちょっと笑わせてくれた」——どんなに些細でもいい。
感謝の習慣は心の中の“マイナス残高”を静かに減らしていく。
ある日「何もいいことがない」と思った日にも「寝坊せずに起きられた」という小さな一歩を書いた。
2. 自分に“声をかける”習慣
朝、鏡に映った自分に「よし、やってみようか」と言ってみる。
バカみたいだと思ってた。
でも、不思議と1日を乗り切れる気がしてくる。特に落ち込んでいた日は「疲れててもここに立ってるだけで偉いよ」と言ったら少しだけ涙が出た。
3. 「誰かを応援する」行為を一日一回
SNSで友人の投稿にひとことコメントを残す。
後輩の仕事をこっそり褒める。
誰かを認めることで自分自身にも「価値がある」と感じられるようになった。
ある日フォロワーの投稿に「その考え方すごく共感しました」と書いたら「あなたのコメントに救われました」と返ってきてスマホを見ながら泣いてしまった。
4. “10分でできる小さな挑戦”をする
英単語を10個覚える。
ベッドの下を掃除する。
履歴書を開いて書きかけの部分を1行だけ進める。
小さな成功体験は未来の自信貯金になる。3日坊主になってもいい。
「今日もダメだったけどちょっとだけ進んだ」
——その感覚が前に進んでいる証拠だった。
5. 「何もせずに過ごす」時間を許す
無理に副業や勉強をしようとしない。
「今日はもう疲れたから何もしない」と決めることも心の残高を守る大事な選択だ。Netflixで同じ映画を3回見てしまった夜も「それでいい」と思えたことが大切だった。
「お金がなくても失わないもの」がある
心の資産を積み重ねるうちに気づいたことがある。
それは「お金がなくても、信頼・習慣・自己肯定感は失わない」ということ。
その日、財布には千円しかなかった。
でもSNSでつながった人が「最近の投稿、よかったよ」とDMをくれた。
涙が出た。僕は“心の貯金”を知らないうちにちゃんと積み上げていたんだ。
そしてこう思った。「この世界はまだそんなに悪くない」と。
おわりに
「あと1万円あれば」と何度も思った。
でも今は「あと少し心に余裕があれば」それで人生は回ることを知っている。
金欠はつらい。
でも、本当につらいのは「誰にも頼れない」「何もできない」と感じるあの孤独だ。
その孤独を少しでも減らしてくれるのが“心の資産”だった。
こんな僕の記録が誰かの“心の口座”に小さなプラスを残せたらうれしい。