― 「期待」の終わりと「危機管理資本主義」の始まり ―
この記事のもとになったnote記事
この分析は noteで公開した記事、
「“生活が助かる政策”が市場に火をつける。――サナエノミクスの本当の狙い」
でお話しした内容をもとにしています。
こちらでは、感情や共感の視点から「サナエノミクス実行期」の変化をやさしく解説しています。
投資家だけでなく、生活者としての視点でも楽しんでいただけます。
noteでは「読者と一緒に考える」スタンスで書きましたが、今回はそこからさらに踏み込んで、市場構造・政策リスク・投資戦略の実践的視点を掘り下げます。
政策“実行”フェーズのサナエノミクスを投資家・経営者・マーケット関係者の立場から立体的に読み解いていきましょう。
サナエノミクス“実行”フェーズで私たちが本当に見るべき「市場の地殻変動」
10月、日経平均が史上初の49,000円台を突破しました。
その背景にあるのは、明らかに「サナエノミクス2.0」への政策期待です。
ただ、11月に入ると、市場の熱はやや冷めた。
理由は簡単です。“期待”が現実の“実行”に置き換わり始めたから。
この転換こそ、投資家がもっとも注視すべき変化です。
サナエノミクスはもう“スローガン”ではなく、実際に市場を動かす経済装置として稼働を始めています。
「ガソリン減税」は何かの“サイン”かもしれない
11月13日、政府はガソリン暫定税率(1Lあたり25.1円)の廃止を発表しました。
家計にとっては歓迎すべきニュース。
しかし、投資家の視点から見ると、これは非常に強い政策転換のサインです。
「国民への優しさ」ではなく、「財政規律の終焉」を意味する。
年間約1.5兆円もの恒久的な税収減。
そして「プライマリーバランス黒字化目標」の事実上の凍結。
これらは、かつての“慎重財政”からの決別です。
例えるなら、政府が「家計簿の赤字を気にせず、未来への投資を最優先する」と宣言したようなもの。
この価値観の転換は、市場に新しいリスクとチャンスを同時にもたらします。
「危機管理投資」という新しい“ものさし”
サナエノミクスの真髄は、「危機管理投資」という考え方にあります。
これは単なる財政出動ではなく、国家の安全保障を経済の中心軸に置くパラダイムシフトです。
民間資本がリスクを取る時代から、国家がリスクを取る時代へ。
政府資金が流れ始めた3つの戦略分野(2025年秋時点)
| 分野 | 政策ドライバー | 現状・進展 |
|---|---|---|
| 防衛 | 防衛費GDP比2%を前倒し達成へ | 三菱重工・IHIなど主要企業の受注残が過去最高 |
| 半導体・AI | 政府支援総額 約3兆円超 | Rapidus試験ライン稼働報道で再注目 |
| エネルギー | 原発再稼働・SMR実証を閣議決定 | 関西電力・日立・三菱重が政策銘柄化 |
これらは「民間が動いて政府が支援する」ではなく、「政府が動いて民間を動かす」――この順序の変化こそが“国家資本主義”の特徴です。
市場の“重心”が静かに動いている
サナエノミクス実行期の最も重要な変化は、市場の重心の移動です。これは単なる景気循環ではなく、構造的な「お金の流れの変化」です。
① 主役の交代 「民間」から「政府」へ
これまで民間企業がリスクを取り経済を牽引していました。しかし今は、政府の予算配分が成長を決める。
“国家が主役の経済”へと完全に舵が切られています。
② テーマの変化 「成長」から「安全保障」へ
かつての「DX」「生成AI」ブームは、今や「防衛」「エネルギー」「国土強靭化」へ。
AIすらもChatGPTから軍事転用・防衛制御システムへ焦点が移りつつあります。
③ 政府と日銀の「ねじれ」
高市政権は“アクセル”(積極財政)、日銀は“ブレーキ”(利上げ圧力)。この構図は、まるで二人三脚で逆方向に走るようなもの。
円相場は150円台後半まで下落し、「高市ショック」の火種にもなりかねません。
投資家が注意すべき「3つのズレ」
政策が“期待”から“実行”に移るとき、市場は歪みます。いま投資家が注目すべきは、この3つのズレです。
ズレ① 「景気が良くても株価が上がらない」
家計支援は消費を下支えしますが、財源不安は国債利回りを押し上げ、結果的に株価バリュエーションを圧迫します。
“家計が助かるほど、投資家は慎重になる”という皮肉な構図です。
⚖️ ズレ② 「国策だから」で買いすぎていないか
防衛関連株は今年+70%以上の上昇。
しかし、補助金期待が先行し、実収益が追いつかない銘柄も。
これからは「補助金をもらえる企業」ではなく、「政策が終わっても稼げる企業」を選ぶ視点が必要です。
ズレ③ 「円安・株高」トレードの限界
積極財政と金融緩和の組み合わせは通貨安要因。ただし、海外資金は政策よりも日米金利差に反応します。
米国が利下げに転じれば、円は反発し、株式市場に冷や水を浴びせる可能性も。
どう動く?「危機管理」時代の投資戦略
この環境で求められるのは、“両極を持つ戦略”です。それがバーベル戦略(Barbell Strategy)です。
️♂️ バーベル戦略とは
「リスクの高い資産」と「リスクの低い資産」を両端に置き、
真ん中の“中程度のリスク”を取らない戦略。
リスクを二極化し、守りながらチャンスを逃さないことが目的です。
攻めの戦略 国策テーマ × 実行能力
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防衛・航空宇宙
三菱重工、IHI、NEC -
半導体・素材
アドバンテスト、信越化学、荏原製作所 -
エネルギー
関西電力、積水化学、日立製作所
ポイントは、「政策+技術+収益性」の三拍子を満たすこと。
守りの戦略 マクロリスクへの備え
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円安・金利上昇に強い外貨建て資産・金ETF
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景気後退時のクッションとなる高配当・インフラ株
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日本依存を避ける国際分散投資
“守り”は地味ですが、長期リターンを安定化させる土台です。
「危機管理資本主義」とどう向き合うか
ガソリン減税、PB凍結、防衛費倍増――これらは、単なる政策ではなく、「国家が経済の舵を取り戻したサイン」です。
もはや、「景気が良いから株が上がる」ではなく、「政策が動くから市場が動く」時代へ。
この“政治と経済が融合した新しいゲーム”では、データやテクニカル分析だけでは不十分。
政策・地政学・国家戦略を読む力が投資家の生命線になります。
まとめ 投資家が取るべき姿勢
| 項目 | 戦略視点 |
|---|---|
| 政策実行期の市場観 | 財政主導型=「国家の意思」が価格を動かす |
| 投資スタンス | 政策恩恵セクター×リスク分散 |
| 注視ポイント | 日銀とのねじれ、円相場、財政信認 |
| 長期戦略 | 攻守両立のバーベル構成 |
高市政権の「危機管理投資」は単なる財政政策ではなく、日本経済の骨格そのものを組み替える試みです。“生活が助かる政策”の裏で、マーケットのルールも静かに変わりつつあります。
あなたのポートフォリオがその変化に対応できているか、あらためてチェックしてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございます。
この記事が少しでも視野を広げるきっかけになったら嬉しいです。